ハースライナーについて (1/2)

ハースライナーの
    使用目的と効果

EB蒸着とハースライナー

 ハースライナーとは、電子ビーム(以下EBと略)蒸着法において、蒸着材料を入れる凹部(一般にハース又はハース穴と称するが、ルツボ穴と称する場合もある)に装着するルツボ状の容器を指します。下にハースライナーを装着した例の磁場偏向型のEB蒸着源(電子銃=EB-Gun)の概念図を掲げます。橙色の部分がハースライナーです。
 ハース穴のある部分全体は銅でできており水冷されています。この水冷されている部分全体も「ハース」と呼んでいます。この図ではハースライナーを描いてありますが、通常のEB蒸着ではハースライナーを使用せず、ハース穴に蒸着材料を直接入れるのが一般的です。ハースライナーを使用する事は、変則的なEB蒸着法とされています。

 ハースライナーの機能は蒸着材料とハースが直接に接触しないようにすることで、主に以下のような2点の効果を目的としています。
@水冷銅ハースと蒸着材料の間を断熱して、蒸着材料の温度上昇を容易にして溶解を容易にしたり蒸着レートを上げる効果を得る。
A銅ハースへの蒸着材料の食い付きや合金化を防いで、ハース穴内をきれいに保ち、クリーニングを容易にする。また、ハース穴内の以前の蒸着材料の残存物からのコンタミネーションを防ぐ。
 

 生産現場での使用では@の用途が多く、研究目的ではAの用途で使用される事が多いようです。この2点以外に、希ですが、少量の蒸着材料で蒸着を行えるようにハースの容量を小さくするために応用されることもあります。
 しかし、ハースライナーと蒸着材料が合金化たり反応したりして目的の成膜が出来なくなったり、ハースライナーにビームが当たって蒸発したりすることもあり得ます。そのため、ハースライナーの材料選びは十分に考慮する必要があります。
 また、多くのEB-Gunや蒸着装置を製造する装置メーカーは、このようなハースライナーの使用を(公式には)サポートしていません。ハース内に蒸着材料以外の異物を入れることは、蒸着に予想不能な悪影響を与える可能性があるため、メーカー側としてはサポートしきれないためと思われます。
 ハースライナーまたは同様のテクニックについての記述で公刊されている例は非常に少なく、「薄膜作製の基礎」(麻蒔立男著,日刊工業新聞社)においてタンタル板の熱緩衝材としての使用と、その場合の蒸着レート向上のデータが記載されている例が有る程度です。同書ではハースライナーらしき容器を示したEB-Gunの図も第2版までは掲載されていましたが、第3版では図からはハースライナー該当部分が省かれています。
トップページに戻る

この Web サイトに関するご質問などについては、直接 [会社のE-Mail] までご連絡ください。
 

「材料」「仕様」については次ページ→